退職金の規定はありません。それでも辞める社員から『退職金をください』と言われた。

退職金を求める社員と感情的になりかける社長

「退職金ください。」――退職する社員との最後の面談で、突然そう言われました。

社長は答えます。「うちには退職金規程はないよ」。すると社員は、「でも、前に辞めた人には払いましたよね」と言いました。

「規程がないから払いません」の一言で終わるとは限りません。過去の支給実績や説明、その場での感情的な応酬が、退職トラブルを大きくすることがあります。

退職金制度を設けることは、原則として会社の義務ではない

退職金制度を設けること自体は、原則として会社の義務ではありません。就業規則、退職金規程、雇用契約書などに支給の定めがなければ、通常は当然に退職金の支払義務が生じるわけではありません。

ただし、「規程がない」という一点だけで即答するのは危険です。会社がどのような説明と運用を続けてきたかも確認する必要があります。

過去の支給実績が、会社の取扱いを示すことがある

過去の退職者に対し、一定の条件や計算方法で繰り返し退職金を支給していた場合、その実績が労使慣行として定着していたかどうかが争点になる可能性があります。

「功労金」「餞別」など別の名称で支払っていても、対象者、勤続年数、金額の決め方、支給回数が共通していれば確認が必要です。一方、社長の個人的な好意による一度限りの支給だったとしても、その趣旨を記録していなければ、後から説明が難しくなります。

  • 誰に、いつ、いくら支給したか
  • 勤続年数や退職理由など、支給条件に共通点があったか
  • 金額を計算する基準があったか
  • 支給しなかった退職者との違いを説明できるか
  • 支給決定時の議事録、稟議書、給与資料等が残っているか

「前の人には100万円払いましたよね。なぜ私はゼロなのですか」という一言で、会社の過去の運用が確認対象になります。

採用時や面談時に、どう説明していたか

就業規則に定めがなくても、求人票、採用パンフレット、労働条件通知書、雇用契約書、社内資料などに退職金の記載がないか確認してください。

また、面接や入社時に「長く勤めれば退職金くらいは出す」「うちは規程はないけれど、今まで全員に払っている」と説明していれば、社員はそれを前提に勤務していたと主張するかもしれません。口頭説明も、誰が、いつ、どのような表現で伝えたかが問題になることがあります。

面談では、追加の質問が続くこともある

退職金の話を確認している途中で、社員から「それと、残っている有給って買い取っていただけるんですか?」と尋ねられることもあります。

年次有給休暇は本来、賃金を受けながら休むための制度であり、退職時に残っているからといって会社に当然の買取義務が生じるわけではありません。ただし、就業規則や過去の運用を確認するとともに、退職日までの年休取得と引継ぎが衝突し得ることには注意が必要です。

この追加質問をきっかけに話題を広げすぎず、退職金と年休を別々の論点として事実確認し、後日回答することが大切です。

感情的に答えると、別の争いが始まる

社長は「今まで面倒を見てきたのに、最後に金の話か」と感じるかもしれません。社員側も、「長く働いたのに何もない」と不満を抱えている可能性があります。

そこで「そんなものは出さない」「文句があるなら明日から来なくていい」と言ってしまうと、退職金の確認だった話が、解雇、賃金、ハラスメント、損害賠償など別の争いへ広がるおそれがあります。

その場で結論を出さず、「規程、契約、過去の支給実績、採用時の説明を確認して回答する」と伝えます。社員の要求と根拠、会社の回答、面談日時、同席者を記録し、必要に応じて社会保険労務士や弁護士へ相談してください。

経営者が確認したい8項目

  • □ 就業規則・退職金規程・雇用契約書等に記載がないか
  • □ 求人票や採用資料に退職金の記載がないか
  • □ 採用時や面談時に退職金について説明していないか
  • □ 過去の退職者への支給実績を一覧で確認できるか
  • □ 支給した場合の条件、計算方法、決定理由が残っているか
  • □ 例外的な支給が恒常的な制度と誤解されない運用になっているか
  • □ 退職面談の内容と会社の回答を書面に残しているか
  • □ 感情的な応酬を避け、専門家へ相談する連絡ルートがあるか

法人リスクダムの事前対策相談

法人リスクダムでは、退職金に関する規程、過去の支給実績、採用時の説明、退職面談と記録の流れを整理し、トラブルが起きる前の確認項目を見える化します。

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本記事は、退職金および退職時の年次有給休暇に関する一般的な情報提供を目的としたものです。支払義務や取扱いは、就業規則、労働契約、過去の運用、具体的な事実関係等により異なります。個別の対応は、社会保険労務士、弁護士、所轄の労働基準監督署等へご相談ください。

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