真夏の作業中、社員がふらつき、言葉が出にくそうにしていました。
「たぶん熱中症だと思います。少し休めば大丈夫です」
会社は涼しい場所で休ませ、水分を取るよう伝えました。
ところが症状は改善せず、医療機関へ搬送。診断されたのは、「脳梗塞」でした。
そして数か月後――。会社に届いたのは、労災認定の通知でした。
家族からは、こう問われます。
「なぜ、すぐに救急車を呼ばなかったのですか?」
社長なら、その場で何をしますか?
暑い日の体調不良を見ると、最初に熱中症を疑うのは自然なことかもしれません。
しかし、ふらつき、意識の異常、ろれつが回らない、片側の手足に力が入らないといった症状には、脳卒中など緊急性の高い病気が隠れている可能性があります。
「熱中症だろう」という思い込みで経過を見ることが、受診や救急要請の遅れにつながるおそれがあります。
会社に求められるのは病名を判断することではなく、異変を把握し、作業を中断させ、定めた手順に沿って医療につなぐことです。
脳梗塞が労災になることはあるのか
脳梗塞は、脳・心臓疾患の労災認定基準の対象となる疾病です。
ただし、勤務中に発症したというだけで、自動的に労災認定されるわけではありません。
発症直前の異常な出来事、短期間または長期間の過重な業務、長時間労働、暑熱環境、身体的負荷などを踏まえ、業務が発症の有力な原因になったかが個別に判断されます。
高血圧、動脈硬化、既往症など本人側の事情があっても、仕事による負荷が病状を著しく悪化させたと判断されれば、労災補償の対象となる可能性があります。
労災認定と会社の損害賠償責任は別です
労災認定されると、状況に応じて療養、休業、障害、遺族、葬祭などの労災保険給付が行われます。
一方、会社が家族から損害賠償を請求されるかどうかは、労災認定とは別に判断されます。
たとえば、次のような対応が問題になることがあります。
- 高温下で長時間の作業を続けさせていた
- 休憩場所や水分・塩分を確保していなかった
- 体調不良を報告する体制や緊急時の手順がなかった
- 明らかな異変があったのに作業を中断させなかった
- 救急要請や医療機関への搬送が遅れた
- 長時間労働や休日不足を把握しながら改善しなかった
- 健康診断の所見に応じた就業上の措置を検討していなかった
安全配慮義務違反などが認められれば、労災保険給付とは別に、慰謝料や逸失利益、介護費用などを請求される可能性があります。
「熱中症かどうか」を会社が決めない
体調不良者への初動で重要なのは、現場の経験だけで病名を決めつけないことです。
- 直ちに作業から離脱させる:安全で涼しい場所へ移し、一人にしません。
- 症状を確認する:意識、会話、歩行、顔のゆがみ、左右の手足の動きなど、明らかな異常がないか確認します。
- 緊急時の手順を実行する:判断に迷う場合や重い症状がある場合は、速やかに救急要請や医療機関への相談を行います。
- 時刻と対応を記録する:発見時刻、症状、気温・作業環境、休憩、連絡、搬送までの経過を残します。
- 家族・社内関係者へ連絡する:推測した病名ではなく、確認できた事実と対応状況を伝えます。
3分でできる緊急対応チェック
- □ 熱中症が疑われる人を発見した場合の報告先が決まっている
- □ 作業離脱、身体冷却、救急要請の手順を周知している
- □ 体調不良者を一人にしないルールがある
- □ WBGT値や気温を確認し、作業・休憩を調整している
- □ 水分・塩分と涼しい休憩場所を確保している
- □ 管理者が脳卒中を疑う主な異変を理解している
- □ 発見から搬送までの時刻と対応を記録できる
- □ 長時間労働や健康診断の所見に応じた措置を確認している
- □ 労災発生時の社内連絡と専門家への相談先が決まっている
初動の遅れを、会社の責任問題にしないために
最初は「少し休めば戻れる」と思える症状だったかもしれません。
しかし、実際の病気が脳梗塞であれば、一刻を争う場面になることがあります。
会社が診断するのではなく、異変を見逃さず、早く医療へつなぐ。
その手順を平時から決めておくことが、社員の命を守り、会社の経営リスクを抑えることにつながります。
法人リスクダムの事前対策相談
法人リスクダムでは、暑熱環境での作業管理、体調不良者の報告体制、救急要請、記録、家族への連絡、労災発生後の初動など、会社が事前に整えておきたい対応手順を整理します。
ご確認ください
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の医学的・法律的判断を行うものではありません。体調不良が発生した場合は、症状に応じて医療機関や救急窓口へ相談してください。労災認定や損害賠償責任は、具体的な業務内容、医学的所見、会社の対応等によって異なります。個別の事案は、医師、社会保険労務士、弁護士等の専門家へご相談ください。


