パート勤務の女性社員が自転車通勤中、高齢の歩行者と衝突。重傷を負わせた。
子どもを保育園へ送り、いつもの自転車で職場へ急いでいた朝。会社に入った連絡は、本人からではなく警察からでした。
「通勤中の事故です。御社の従業員で間違いありませんか」
経営者は思います。
「本人の自転車で、勤務開始前の事故だ。会社は関係ないのでは?」
しかし、相手は高齢の女性。救急搬送され、長期の治療が必要だといいます。
事故を起こした社員本人に十分な支払い能力がなければ、被害者やその家族が勤務先にも説明や対応を求める可能性があります。まして、会社が通勤方法を把握せず、安全上の指導もしていなかったとすれば、「通勤中だから関係ない」の一言では済まないかもしれません。
まず、事故の責任、社員本人の通勤災害、会社の管理状況を分けて確認する必要があります。
まず分けて考えたい3つの問題
1 「本人が払えない」で終わらない
自転車でも、歩行者に重いけがや後遺障害を負わせれば、治療費、休業による損失、介護費用、慰謝料など、賠償額が大きくなる可能性があります。
問題は、事故を起こした社員本人に十分な支払い能力がない場合です。
被害者やその家族が、「勤務先ではどのような通勤管理をしていたのか」「会社は自転車通勤を把握していたのか」「危険な状態を放置していなかったか」「通勤だけでなく、仕事にも自転車を使わせていなかったか」と、会社側の責任を調べ始める可能性があります。
本人から十分な賠償を受けられないからといって、会社が自動的に責任を負うわけではありません。しかし、被害者側から会社へ問い合わせや請求が来ないとは限りません。
2 社員本人のけがと通勤災害
社員本人もけがをしている場合、住居と就業場所との間を合理的な経路・方法で移動していた事故は、労災制度上の通勤災害となる可能性があります。会社へ自転車通勤を届け出ていなかったことだけで、直ちに対象外になるとは限りません。
一方、私用で大きく遠回りしていたなど、経路の逸脱や中断があれば扱いが変わることがあります。事故時刻、経路、立寄り先、出退勤記録を確認し、推測だけで判断しないことが大切です。
3 管理不足があれば、会社の立場はさらに厳しくなる
通常の通勤中に、社員が私有の自転車で起こした事故について、会社が常に責任を負うわけではありません。
ただし、次のような事情があれば、会社と事故との関係を詳しく確認される可能性があります。
- 自転車通勤を認めながら、届出を提出させていなかった
- 誰が自転車で通勤しているのか把握していなかった
- 交通ルールや安全運転について何も指導していなかった
- 遅刻を避けるため、無理な移動を事実上求めていた
- 私有自転車を仕事中の移動や配達にも使わせていた
- 過去に危険な運転や事故があったのに、注意や改善を行わなかった
- 事故発生時の報告方法や会社の対応者を決めていなかった
特に、通勤と業務で同じ自転車を使用していた場合や、会社が自転車の利用を積極的に求めていた場合は、単なる私生活上の事故として整理できないことがあります。
会社側の管理不足や独自の落ち度が問題になれば、会社自身の責任を問われる可能性も考えなければなりません。
「勤務開始前だから関係ない」と即答しない
警察、被害者、その家族などから連絡があったとき、事実確認をせずに「勤務開始前なので、会社は一切関係ありません」と回答するのは危険です。
まず、次の点を確認します。
- 負傷者の救護と警察への届出が行われているか
- 事故の日時、場所、経路、出勤前か退勤後か
- 社員本人と相手方の負傷状況
- 自転車の所有者
- 会社への通勤届の有無
- 会社が実際の通勤方法を把握していたか
- 自転車を仕事にも使わせていたか
- 出勤時刻や勤務指示との関係
- 過去の事故や危険運転に関する注意履歴
- 社員本人の支払い能力を含む、事故後の対応状況
- 会社名での回答や謝罪を誰が行うか
会社に法的責任があるかどうかを決めつける前に、通勤と業務の関係、会社の指示、日頃の管理状況を整理することが重要です。
経営者が平時に確認しておきたいこと
重大事故が起きてから通勤状況を調べるのでは遅すぎます。
自転車通勤を認める場合は、正社員だけでなく、パート・アルバイトを含めて次の事項を明確にしておきましょう。
- 自転車通勤を届出制にする
- 通勤経路と使用車両を把握する
- 交通ルールと安全運転について定期的に周知する
- 自転車の点検と整備を本人に求める
- ヘルメットの着用方針を定める
- 私有自転車を業務に使用する場合のルールを分ける
- 事故が起きた場合の連絡先と初動手順を決める
- 届出内容を定期的に更新する
重要なのは、書類を一度提出させることではありません。会社が実際の通勤状況を把握し、危険を放置せず、必要な指導と記録を継続しているかどうかです。
参考資料
ご確認ください
本ページは、法人・医療機関等の経営リスクを考えるための一般的な情報です。通勤中の事故について会社が責任を負うかどうかは、事故の状況、自転車の所有関係、業務利用の有無、会社からの指示、日頃の管理状況などによって異なります。
実際に重大事故が発生した場合は、事実関係と記録を整理したうえで、警察、労働基準監督署、弁護士等へご確認ください。


