「労災事故で指一本2,000万!?」

経営リスク

工場で作業中、従業員が機械に手を挟まれ、指を切断する労災事故が起きた。

会社は事故を報告し、労災保険の手続きを進めた。

治療費や休業中の補償は、労災保険から給付される。

社長は、会社として必要な対応は進めているつもりだった。

「労災があるんだから、それ以上、会社ですることはないだろう」

そう思っていた。

ところが、その後。

会社宛てに、一通の書面が届いた。

記載されていたのは、事故について会社の安全管理上の責任を問う損害賠償請求だった。

社長は、請求額を二度見した。

「えっ、指一本……2,000万!?」

労災保険の手続きをしていれば、会社への請求はもうない。

そうとは限りません。

2,000万円は、「指の値段」ではありません。

事故によって失われる収入、仕事の選択肢、生活への影響。その先を金額にすると、損害全体が2,000万円規模になる可能性がある、という話です。

労災がある。だから会社は終わり?

従業員の労災事故と会社の損害賠償責任

労災保険に加入し、保険給付が行われれば、事業主は労働基準法上の補償責任を一定の範囲で免れます。

しかし、事故の原因について会社に安全配慮義務違反や不法行為があったと主張されれば、労災保険とは別に、従業員側から会社へ民事上の損害賠償請求がなされることがあります。

もちろん、同じ損害が二重に補填されるわけではなく、労災保険給付と損害賠償の間では調整が行われます。

それでも、労災保険だけでは補われない損害が問題になり、会社への請求につながることがあります。

治療費だけを見ていたら、金額の桁を読み違える

指の事故で問題になるのは、治療費だけではありません。

事故によって仕事を休めば、休業による損害が発生します。

後遺障害が残れば、慰謝料の問題も出てきます。

そして大きいのが、

「この先の仕事に、どれだけ影響するのか」

という問題です。

手や指を使う仕事であれば、指の機能を失うことが、その後の働き方や収入に長期間影響する可能性があります。

その将来の減収分が「逸失利益」として計算されることがあります。

年齢、収入、職業、失った指やその部位、後遺障害の程度などによっては、この金額が大きくなることがあります。

本当に「指一本2,000万円」になるのか?

結論から言えば、指一本の切断事故で損害全体が2,000万円規模になる可能性はあります。

ただし、指一本を失えば、一律2,000万円という決まりがあるわけではありません。

事故ごとに条件が違うため、金額も大きく変わります。

しかし、

治療費・入院費
休業による損害
後遺障害に対する慰謝料
将来の逸失利益
その他の損害

などを積み上げていけば、損害全体が1,000万円、2,000万円という規模になるケースはあり得ます。

さらに事故について会社側の安全管理に問題があったとなれば、会社の安全配慮義務違反が問われる可能性もあります。

例えば、若く、手や指を使う仕事を続けるはずだった従業員なら、将来の減収分だけで1,000万円を超えることがあります。

そこに慰謝料、休業損害、治療関係費などが加われば、損害全体が2,000万円前後になることはあり得ます。

2,000万円は「会社が追加で払う金額」とは限らない

ここは、金額を三つに分けて考える必要があります。

  1. 労災保険から支給される金額――治療費、休業補償、障害補償など
  2. 事故によって生じた損害全体――慰謝料や逸失利益なども含めた額
  3. 会社に最終的に残る負担――会社の責任、労災給付との調整、過失割合などを踏まえた額

例えば、一手の示指を失った場合は、労災の障害等級第11級に該当する例があり、障害補償一時金は給付基礎日額の223日分です。仮に給付基礎日額が1万2,000円なら、単純計算で約268万円です。特別支給金などが加わる場合はありますが、指一本の障害補償だけで2,000万円になるわけではありません。

一方、民事上の損害額では、将来の逸失利益や慰謝料なども問題になります。その合計が2,000万円規模になり、会社宛ての請求書にその金額が記載されることはあり得ます。

ただし、請求された金額がそのまま会社の最終的な支払額になるわけでもありません。同じ損害について労災保険と民事賠償が二重に補填されないよう、重なる部分は調整されます。

「損害総額2,000万円」

「会社への請求額2,000万円」

「会社が最終的に2,000万円を追加負担」

この三つは、同じ意味ではありません。

見た目の傷だけでは、最終的な損害は分からない

少し違う話ですが、自動車の修理にも似たところがあります。

駐車場でドアをぶつけられた。

見た目には、かすった程度の小さな傷。

ところが実際に修理すると、

板金、塗装、周辺部分との色合わせ、コーティングの再施工、修理期間中のレンタカー……

と費用が積み重なり、想像していた以上の金額になることがあります。

労災事故とは重大性がまったく異なりますが、共通しているのは、

「目に見えている損傷だけで、最終的な損害額は判断できない」

ということです。

指の事故なら、その影響が何年、場合によっては何十年と続くことがあります。

事故の向こうには、家族もいる

そして会社が向き合うのは、金額だけではありません。

怪我をした従業員には生活があります。

その収入で暮らしている家族がいるかもしれません。

今までできていた仕事ができなくなったらどうなるのか。

これからも同じ収入を得られるのか。

家族の生活はどうなるのか。

事故直後には見えていなかった問題が、時間とともに次々と現れてくることがあります。

会社にとっては一件の労災事故。
従業員とその家族にとっては、その後の人生に関わる出来事です。

だからこそ、事故が起きた後の対応だけでなく、事故を起こさないための管理が重要になります。

3分経営リスクチェック|「労災があるから」で止まっていないか

□ 機械の安全装置が正しく使用されているか

□ 慣れた作業ほど自己流になっていないか

□ 危険な作業方法を会社が黙認していないか

□ ヒヤリハットを「事故にならなかった」で終わらせていないか

□ 新人だけでなくベテランにも安全教育を行っているか

□ 万一重大事故が発生した場合、会社にどの程度の影響が出るか把握しているか

事故が起きた瞬間には、その損害がどこまで広がるのか分かりません。

「えっ、指一本2,000万!?」

その金額を事故の後で知るのではなく、事故が起きる前に、一度会社の安全管理を見直してみる。

それも経営リスク管理のひとつです。

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※本記事は一般的な情報であり、個別の損害額や会社の法的責任を断定するものではありません。労災保険給付と損害賠償の調整を含め、実際の事故対応は事実関係に応じて、労働局、社会保険労務士、弁護士などの適切な専門家・関係機関へご確認ください。

【主な公的根拠】
厚生労働省「障害等級認定基準について」
厚生労働省「労働災害が発生したとき」

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