まさか、こちらに?シリーズ③
コロナも、ようやく落ち着いてきた。
会社では長くテレワークを続けていましたが、社長はそろそろ通常の勤務に戻したいと考えていました。
「来月から、基本は出社に戻そう」
特別な話ではありません。
仕事の進み具合も見えやすい。
社員同士のコミュニケーションも取りやすい。
社長としては、ごく普通の経営判断でした。
ところが——
一人の若い男性社員の様子がおかしくなります。
出社するようになってから遅刻や欠勤が増え、電話の声もどんどん小さくなっていきました。
「……すみません。今日も休ませてください」
そして、ついに休職の話が出ます。
社長は心配になりました。
事情も聞きたい。
必要な手続きも進めなければならない。
そこで、こう伝えます。
「わかった。ただ、休職するなら一度会社に来て話そう」
社長に悪気はありません。
むしろ、きちんと本人と話そうとしただけでした。
しかし——
その社員にとって、「会社へ行くこと」自体がすでに限界だったのです。
「行かなきゃ……」
「でも、会社に行くのが怖い……」
結局、出社できませんでした。
そして後日。
会社に一通の通知書が届きます。
「出社を求められたことで、本人の症状が悪化した」
代理人からの連絡でした。
社長は通知書を見て固まります。
「えっ……俺が?」
テレワークを終わらせただけ。
一度会社に来て話そうと言っただけ。
それが、まさか自分たちの対応を問われる話になるとは思っていませんでした。
問題は「出社させること」ではありません
会社が出社勤務へ戻すこと自体が、直ちに問題になるわけではありません。
怖いのは、明らかに様子が変わっている社員に対しても、いつもと同じ対応を続けてしまうこと。
欠勤が急に増えた。
電話の声がおかしい。
「会社に行けない」と訴えている。
休職の話まで出ている。
そんなサインが出ているなら、
「とにかく一回来て」
の前に、一度立ち止まる必要があります。
本人の状態を確認する。
必要に応じて診断書などを確認する。
出社以外の方法で話せないか考える。
そして、心身の状態に配慮しながら手続きを進める。
「休みたい」は、SOSかもしれない。
社長からすれば、
「一度来て話そう」
社員からすれば、
「その一度が、もう無理です」
同じ言葉でも、見えている景色はまったく違うことがあります。
社員の変化を見逃さないこと。
それが社員を守り、結果として会社を守ることにもつながります。
まさかこちらに。
思わぬリスクは、すぐそばに。
3分チェック
□ 欠勤や連絡時の様子など、社員の変化を把握していますか?
□ 本人が出社して話せる状態か、確認していますか?
□ 必要に応じて診断書などを確認していますか?
□ 電話やオンラインなど、出社以外の連絡方法を選べますか?
□ 休職の手続きと対応の記録を残していますか?
※実際の法的責任は、個別の事情によって判断されます。

