酒を飲んで仕事をしていた社員。「こんなの即刻処分だ」と思っていた。ところが、話はまったく逆の方向へ進んだ。
営業社員が、勤務中に酒を飲みながらパソコンに向かっていた。顧客対応や社用車の運転にも影響しかねない行為です。経営者として、強い憤りを覚えるのは当然でした。
ところが、本人への確認を始めると、こんな主張が出てきました。
「そこまで追い詰められたのは、会社のせいです」
長時間労働、厳しいノルマ、上司との関係、体調不良の訴え、ハラスメントの申告。会社は「飲酒勤務をした社員を処分する側」だけではいられなくなり、勤務実態や相談対応、安全配慮について説明する側になりました。
※本ページは、実際の経験をもとに、人物・時期・業種・経緯などを変更して再構成したケースです。特定の人物や事案を示すものではありません。
初動は「処分」より先に、安全確保と事実確認
勤務中の飲酒を把握したら、まず本人をそのまま働かせないことが重要です。顧客対応、機械操作、運転などを直ちに止め、本人と周囲の安全を確保します。意識状態や体調によっては、家族、医療機関、救急への連絡も検討します。自分で車や自転車を運転して帰らせてはいけません。
同時に、発見時刻、場所、酒類と量、本人の状態、担当業務、目撃者、勤怠記録など、確認できた事実を客観的に記録します。その場の怒りで退職届を書かせたり、「懲戒解雇だ」と断定したりすると、その後の確認や対応を難しくするおそれがあります。
飲酒勤務そのものは、正当化されません
本人にメンタル不調や職場への不満があったとしても、勤務中の飲酒が当然に許されるわけではありません。判断力の低下、顧客との事故、情報漏えい、誤発注、交通事故など、本人だけでなく第三者へ重大な影響が及ぶ可能性があります。
注意・処分を検討する場合は、就業規則の定め、飲酒の状況、業務への影響、過去の指導歴、本人の説明などを確認し、手続と処分の相当性を慎重に整理します。
ただし、背景に会社側の問題がなかったかは別に確認します
問題行動への対応と、その背景の調査は分けて進める必要があります。本人から次のような申告が出た場合、会社の労務管理や安全配慮も同時に確認対象となり得ます。
- 長時間労働や休日出勤が常態化していた
- 達成困難なノルマや強いプレッシャーが続いていた
- 上司の叱責、威圧的な言動、孤立があった
- 不眠、抑うつ、体調不良を訴えていたが対応されなかった
- ハラスメントを相談したが、調査や配慮がなかった
- 相談窓口がない、または相談しにくい状態だった
会社が申告内容に同意する必要はありません。しかし、「飲酒した本人が悪い」で調査を終えると、勤怠管理、健康管理、相談対応、上司への教育などについて、後から説明できなくなる可能性があります。
本人の申告は、処分の話と切り分けて受け止める
ハラスメントや体調不良の申告が出た場合は、飲酒行為を追及する担当者とは別の担当者を置く、先入観を入れずに聴取する、関係者のプライバシーを守るなど、調査の公正さを確保します。相談したことや調査へ協力したことを理由とする不利益な取扱いにも注意が必要です。
会社だけで判断せず、社会保険労務士、弁護士、産業医などへ早期に相談することも選択肢です。
会社が残しておきたい記録
- 発見時の状況と安全確保の経過
- 本人・目撃者・上司から聴取した内容
- 出退勤、残業、休日労働、営業行動の記録
- 本人からの体調不良や相談の履歴
- ハラスメント申告と会社の調査・回答
- 就業規則、教育記録、過去の指導内容
- 医師や専門家へ相談した内容と実施した配慮
記録は「会社に都合のよい説明」を作るためではなく、何が起き、何を把握し、どのように判断したかを後から確認できるようにするためのものです。
3分チェック
次の項目に一つでも迷う場合は、問題が起きる前に社内ルールを確認してください。
- □ 勤務中の飲酒を発見したとき、誰が業務を止めるか決まっている
- □ 飲酒状態の社員を運転させない帰宅手段が決まっている
- □ 懲戒の根拠となる就業規則と手続を確認している
- □ 残業・休日労働を客観的に把握している
- □ 体調不良やメンタル不調の相談先を周知している
- □ ハラスメント申告の受付・調査・記録方法が決まっている
- □ 相談者への不利益な取扱いを防ぐルールがある
- □ 産業医、社労士、弁護士等への相談経路がある
参考資料
ご確認ください
本ページは、法人・医療機関等の経営リスクを考えるための一般的な情報です。飲酒勤務への処分、休職・受診の勧奨、安全配慮義務、ハラスメント調査などの判断は、就業規則、勤務実態、本人の健康状態、申告内容等によって異なります。実際の対応については、社会保険労務士、弁護士、産業医、労働基準監督署等へご確認ください。
問題社員だと思っていた。気づけば、会社の管理体制を説明する側になっていた。


