流出から数日後。
あの電話の男が、介護施設へ現れました。
玄関で彼女を見つけると、笑って言いました。
「久しぶり。やっと見つけた」
その声を聞いた瞬間、彼女の体は固まりました。
昔、何度断ってもしつこく連絡してきた客の男でした。
警察へ相談し、男はその場から離れました。
しかし、施設長が次に呼んだのは、彼女でした。
「しばらく休んでもらえないかな」
「どうして私が休むんですか?」
「入居者や家族に何かあってからでは遅い。施設も困っているんだ」
「それは、私のせいですか?」
涙をこらえながら、彼女は立ち上がりました。
「情報を漏らしたのは施設ですよね?」
「施設へ来たのは、あの男ですよね?」
「それなのに、どうして私が辞めるんですか?」
「被害者は、私ですよね?」
勤務に問題はありませんでした
現在の勤務態度に問題はない。入居者への対応にも問題はない。施設の規則に違反した事実も確認できていない。
それでも、「入居者を守るため」「施設の評判に響くかもしれない」という理由で、彼女に休職や退職を求めようとしていました。
解雇には、客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性が問われます。本人の望まない自宅待機、配置転換、退職勧奨にも慎重な判断が必要です。
施設も被害者だったはずなのに
ランサムウェア攻撃をしたのは犯罪者です。情報を盗まれた施設も被害者です。
しかし、流出した過去を理由に本人を追い詰めれば、施設は別の問題を自ら作ることになります。
最初にやること
- 流出した過去と、現在の勤務評価を切り分ける
- 本人の希望を聞かずに休業や配置転換を決めない
- 職場内の噂、侮辱、画像の転送を止める
- 本人と施設の安全対策を講じ、入居者家族には必要以上の個人情報を説明しない
- 退職、処分、配置転換を伝える前に専門家へ相談する
3分チェック
□ 風評だけで人事判断をしない仕組みがある
□ 退職勧奨と解雇の違いを理解している
□ 個人情報流出後の職員ケアを決めている
□ 職場内の二次拡散を禁止できる
□ 外部の人物が押しかけた際の安全対応が決まっている
施設長は、被害を早く収めようとしただけかもしれません。
しかし、その判断で新しい争いが始まります。
情報を盗んだのは犯罪者です。
職場まで押しかけたのは、しつこい元客です。
それでも、職場から追い出されるのは彼女なのでしょうか。
この中で、守られるべき人は誰でしょうか?
参考資料・最終確認
最終確認日:2026年9月3日
本記事は、経営上のリスクを考えるために一般化・再構成した架空事例です。実際の安全配慮、人事・労務上の判断は、具体的な状況に応じて警察、弁護士、労務の専門家等の適切な専門家へご確認ください。


