「入院中の給料が減ったら困るだろう」
社長はそう考え、社員から正式な申請を受けないまま、休んだ日をすべて年次有給休暇として処理しました。
給与は通常どおり支払われます。社員のためを思った対応でした。
ところが、退院後に本人からこう言われます。
「有給は、復職後の通院や体調不良に備えて残しておきたかった」
「傷病手当金を使えるなら、先に説明してほしかった」
「会社が勝手に有給を全部なくした」
では、最初から欠勤や休職として扱い、傷病手当金を案内すればよかったのでしょうか。
必ずしも、そうとは限りません。
「傷病手当金では収入が減ってしまう。使える有給があるなら、先に使いたかった」
今度は、反対の不満が出る可能性があります。
会社が良かれと思って決めたことでも、本人が選べるはずだった選択肢を説明せず、一方的に処理してしまえば、後から労務トラブルになることがあります。
大切なのは、会社が「有給か、傷病手当金か」を本人に代わって決めることではありません。
選択肢と金銭面の違いを説明し、本人の希望を確認し、その過程を記録することです。
※本記事は、主として業務外の病気やけがによる入院・療養を想定した一般的な情報です。労災に該当する可能性がある場合や、個別の就業規則・雇用契約に関する判断は、社会保険労務士、弁護士その他の専門家へご相談ください。
病気で入院したら、自動的に有給休暇になるわけではない
年次有給休暇は、病気やけがの療養にも利用できます。
一方、年次有給休暇は原則として、労働者が取得する時季を指定して利用する制度です。
したがって、社員が入院して会社を休んだからといって、会社が当然に残日数のすべてを有給として処理できるわけではありません。
法定の年5日の時季指定や、労使協定に基づく計画年休など、会社側が取得日を定められる仕組みもあります。しかし、これらを除き、本人の申請や意思確認をしないまま、長期間の欠勤を一方的に有給へ振り替える運用は避けるべきです。
また、有給休暇を使えるのは、原則として本人に労働義務がある日です。入院期間のすべての日数が、そのまま有給の消化日数になるわけではありません。
参考:厚生労働省「年次有給休暇」
参考:厚生労働省「年次有給休暇の時季指定」
有給休暇を使わない場合、傷病手当金を受けられることがある
健康保険の被保険者が、業務外の病気やけがの療養のため仕事に就くことができず、会社を休み、十分な給与を受けられない場合には、傷病手当金の対象となることがあります。
主な要件は、次のとおりです。
- 業務外の病気やけがの療養であること
- 療養のため、仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含め、4日以上仕事を休んでいること
- 休業期間について、給与の支払いがないか、給与額が傷病手当金より少ないこと
最初の連続した3日間は「待期」と呼ばれます。待期には、有給休暇、公休日、土曜日・日曜日、祝日も含まれ得ます。待期が完成した後、4日目以降の仕事に就けなかった日が支給対象になります。
1日当たりの支給額は、原則として、支給開始日前の一定期間における標準報酬月額の平均を基礎に計算した額の3分の2相当です。支給開始日から通算して1年6か月が支給期間の上限です。
ただし、休業期間に給与や手当が支払われる場合は、傷病手当金が支給されないか、差額のみの支給となることがあります。加入先の健康保険、被保険者期間、給与規程などによっても実際の取扱いが異なるため、個別の確認が必要です。
参考:協会けんぽ「傷病手当金」
どちらを選ぶかは、本人の事情によって変わる
有給を使えば収入を保ちやすい一方、退院後の通院に残しておきたい人もいます。傷病手当金を利用する場合も、収入の減少や入金までの時間を考える必要があります。
「有給にしてあげる」「有給を残してあげる」。どちらも、本人の希望と同じとは限りません。
会社が確認することは、3つ
- 選択肢とお金の違いを説明する。
有給、欠勤・休職、その組合せや社内の病気休暇制度を確認。有給残日数、給与、傷病手当金の見込み、社会保険料の本人負担を伝えます。給付の可否や金額は加入先の健康保険に確認します。 - 本人の希望を確認し、記録する。
使いたい有給の日数・期間を申請書やメールで残します。療養の見込みが変わったら、改めて確認します。 - 長引いた場合の対応も決める。
就業規則に沿って休職期間、連絡窓口、保険料の支払方法、復職時の確認手順を案内します。復職・退職など個別の判断は、必要に応じて専門家へ相談します。
関連記事:休職中の社会保険料を案内するとき、会社が確認しておきたいこと
社員のために決める前に、社員に選んでもらう。
説明し、希望を聞き、記録する。それが、善意をトラブルに変えないための第一歩です。