「私の不注意です」と言っていた従業員。翌週、会社の責任が問われた。

高い棚の物を取ろうとして事務椅子から転落しかける女性従業員

法人リスクダム|リスク事例10

「私の不注意です」と言っていた従業員。
翌週、会社の責任が問われた。

従業員が自分の不注意を認めている。

だから、会社には問題がない。

事故が起きた直後、そう考えてしまう経営者は少なくないかもしれません。

しかし、従業員の一言だけで、会社としての確認を終えてよいのでしょうか。

閉店前の、いつもの作業でした

閉店まで、あと30分。

従業員は、高い棚に置かれた備品を取ろうとしていました。

脚立を取りに行くと時間がかかる。

近くにあった椅子を棚の前へ運び、その上に乗りました。

いつも行われていた、特別珍しくもない作業です。

ところが、椅子から降りようとした瞬間、足を滑らせて転落。

床に強く手をつき、腕を骨折しました。

「急いでいた私が悪いんです」

事故直後、従業員は社長に言いました。

「脚立を使わなかった私の不注意です」

「急いでいた私が悪いので、会社には迷惑をかけません」

社長も、本人の確認不足による事故だと思いました。

会社が椅子に乗るよう指示したわけではない。

危険な作業を命じたつもりもない。

本人も自分の不注意だと認めている。

社内では、「今後は気をつけましょう」という話で終わりかけていました。

ところが、確認されたのは別のことでした

後日、事故の状況について詳しい確認が始まりました。

尋ねられたのは、従業員の不注意だけではありませんでした。

「安全に使える脚立は、すぐ取り出せる場所にありましたか」

「高い場所の物を取るときのルールは決められていましたか」

「一人で作業をしないよう、指導していましたか」

「安全教育を行った記録は残っていますか」

「従業員が椅子に乗って作業していることを、管理者は知りませんでしたか」

聞き取りを進めると、同じような作業が以前から行われていたことも分かりました。

脚立は倉庫の奥に置かれ、取り出すには荷物を動かす必要があった。

忙しい時間帯には、ほかの従業員も椅子を使っていた。

管理者も、その様子を何度か見ていました。

しかし、注意した記録も、安全な作業方法を周知した記録も残っていませんでした。

立場が逆転した瞬間

事故直後は、「従業員が勝手に危険なことをした」と考えられていました。

ところが、確認が進むにつれ、焦点は変わっていきました。

危険な作業が繰り返されていたことを、会社は把握していなかったのか。

把握していたなら、なぜ止めなかったのか。

安全な道具を使いやすい場所に用意していたのか。

作業方法を決め、従業員へ伝えていたのか。

会社として、どのような安全管理をしていたのか。

従業員の不注意を説明するつもりだった社長が、会社の安全管理について説明を求められる立場になったのです。

「本人が悪い」で終わらせない

事故には、本人の不注意が関係することがあります。

しかし、それだけで会社側の確認が不要になるとは限りません。

大切なのは、誰が悪いかを急いで決めることではなく、事故が起きた背景を事実に基づいて確認することです。

  • 安全な道具は用意されていたか
  • 道具を実際に使える状態だったか
  • 作業方法は明確に決められていたか
  • 従業員へ説明・教育していたか
  • 危険な作業が日常化していなかったか
  • 管理者が危険な状態を見過ごしていなかったか
  • 点検・注意・教育の記録が残っているか

「本人が自分の不注意だと言っている」という理由だけで、会社としての確認を止めないことが重要です。

事故直後に会社が確認したいこと

事故が発生したときは、まず負傷者の救護と必要な連絡を優先します。

そのうえで、状況が変わらないうちに、次のような事実を整理します。

  1. いつ、どこで、何をしていたときに発生したか
  2. 使用していた道具や設備は何か
  3. 周囲にいた人は誰か
  4. 現場の写真や映像が残っているか
  5. 作業手順や社内ルールはあったか
  6. 過去にも同じ作業や類似事故がなかったか
  7. 教育、注意、点検の記録が残っているか

本人や周囲の記憶だけに頼らず、写真、記録、手順書などを保存しておくことも大切です。

あなたの会社ではどうでしょうか

高い棚の物を取る。

重い荷物を運ぶ。

濡れた床を歩く。

機械や器具を清掃する。

日常的な作業ほど、危険が見過ごされやすくなります。

従業員が「自分の不注意です」と言ったとき、そこで確認を終えていませんか。

事故が起きてから初めて説明を求められる前に、会社の安全管理と記録を一度見直してみてください。

※本記事は、事業者のリスク管理を考えるための一般的な情報です。個別の事故に関する法的責任や必要な対応は、具体的な状況によって異なります。実際の事故については、関係機関や適切な専門家へご確認ください。

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