タイムカードを押した。さあ帰ろう。
その瞬間、職員室の電話が鳴りました。
「すみません。うちの子が頭につけていたリボンがなくて……園に忘れていませんか?」
電話を取った先生は、教室へ戻りました。棚の下を見て、ロッカーを確認して、ほかの先生にも聞く。見つからないことを保護者へ折り返しているうちに、20分ほど経っていました。
でも、タイムカードはもう押してあります。
この20分は、「退勤後だから勤務時間ではない」で終わるのでしょうか。
タイムカードの時刻と、実際の労働時間は同じとは限らない
労働時間に当たるかどうかは、タイムカードに記録された時刻だけで決まるものではありません。厚生労働省のガイドラインでは、労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、明示または黙示の指示によって業務に従事する時間は労働時間に当たると整理されています。
今回の先生は、保護者からの電話を受け、園内を探し、ほかの職員へ確認し、結果を折り返しています。園の業務として対応することが求められていたのであれば、打刻後であっても、その20分は労働時間に該当する可能性があります。
一方、電話に出た事情や園のルール、管理者が対応を認識・容認していたか、本人が自由な判断で行ったのかなどによって評価は異なります。「タイムカードを押したか」だけでなく、実際に誰のために、どのような状況で対応していたかを確認することが重要です。
では、漫画を読んでいる1時間は「休憩」でしょうか
荷物を積むため、トラック運転手が倉庫へ到着しました。
「まだ前のトラックが終わっていないので、ここで待ってください」
いつ呼ばれるか分からない。車両を動かす必要があるかもしれない。そこで運転席に残り、漫画を読みながら待ちました。1時間後、ようやく荷積みが始まります。
漫画を読んでいたのだから休憩——とは、必ずしも言い切れません。
休憩時間は、労働から離れることが保障され、原則として自由に利用できる時間です。これに対し、その場を離れられず、連絡があればすぐ荷積み位置へ移動するなど、業務への対応を求められている待機は「手待時間」として労働時間に当たる可能性があります。
何をしていたかではなく、待っている間にどれだけ自由があったか。外出できたのか、車両を離れられたのか、呼出しへ直ちに応じる必要があったのか、待機場所や方法を指定されていたのか。こうした実態が判断上のポイントになります。
「仕事をしているように見えない時間」ほど、記録から抜けやすい
保育園の20分と、トラックの1時間。場面は違いますが、共通しているのは、会社の勤怠記録から見えにくいことです。
- 退勤の打刻後に電話、片付け、引継ぎ、保護者・顧客対応をしている
- 現場や取引先で、いつ呼ばれるか分からないまま待っている
- 休憩中でも電話当番や来客対応から離れられない
- 管理職が「少しだけ」と打刻後の確認を頼んでいる
- 待機を休憩扱いにしているが、外出や場所の移動ができない
このような時間が習慣になっていると、本人も管理者も「よくあること」として見過ごしやすくなります。しかし、短時間でも毎日積み重なれば、勤怠記録と実態の差が大きくなることがあります。
会社が確認したいのは「打刻後に仕事をしないで」だけではない
打刻後の業務を禁止するだけでは、電話を無視できない、交代要員がいない、荷積みの順番をその場で待つしかない、といった実態は解消しません。
まずは、打刻後に業務が発生した場合の申告・修正方法を明確にし、管理者がその記録を消さない運用にします。終業間際の電話を誰が受けるか、対応が長引いたときは誰へ報告するかも決めておきます。
待機時間については、待機の場所、呼出し方法、離席・外出の可否、対応までに許される時間、実際の休憩時間が別に確保されているかを確認します。名称を「休憩」としていても、実態が伴っているかを見直す必要があります。
3分で確認する「見えない労働時間」チェック
- □ 退勤打刻後の電話・来客・片付け・引継ぎを把握しているか
- □ 打刻後に仕事が発生したとき、本人が簡単に修正申告できるか
- □ 管理職が短時間の業務を「申告しなくてよい」と扱っていないか
- □ 休憩中の電話当番や来客対応を労働時間と分けて確認しているか
- □ 荷待ち・待機中に、その場を自由に離れられるか確認しているか
- □ 呼出しへの即時対応、待機場所、車両管理などの指示がないか
- □ 実際に休める時間を、待機時間とは別に確保しているか
- □ タイムカードと入退室記録、業務端末、配送記録などに大きなずれがないか
記録にない時間を、なかったことにしない
タイムカードは労働時間を把握するための大切な記録です。ただし、押した瞬間に業務の実態まで消えるわけではありません。
「もう退勤したから」「漫画を読んでいたから」と結論を急がず、その時間に仕事から離れる自由があったかを確認する。見えない20分や1時間を見つけることが、未払い賃金や労使トラブルを防ぐ第一歩になります。
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法人リスクダムでは、始業前・終業後の業務、休憩、待機、電話当番など、会社が見落としやすい労働時間の実態と確認ポイントを整理します。
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本記事は、労働時間管理に関する一般的な情報提供を目的としたものです。労働時間に該当するかどうかは、契約や就業規則の名称だけではなく、会社・取引先からの指示、業務上の必要性、場所的・時間的な拘束、離席や外出の可否、呼出しへの対応義務などの実態から個別具体的に判断されます。具体的な対応は、社会保険労務士・弁護士・労働基準監督署などの専門機関へご相談ください。
参考:厚生労働省「労働時間・休日」、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」、厚生労働省「トラック運転者の長時間労働改善特別相談センター」


