――流れ出した廃油は、海まで行った。
記録的な大雨だった。
道路は冠水。
川は増水。
そして、工場にも水が入った。
機械も資材も水浸し。
社長は呆然と立ち尽くした。
「ひどいな……これは」
このとき社長は、
自分たちが完全に「被害を受けた側」だと思っていた。
ところが――
数日後。
一本の電話が入った。
「工場から油が流出していませんか?」
確認すると、
工場に保管していた廃油が流されていた。
洪水と一緒に敷地の外へ。
側溝へ。
川へ。
そして――
海へ。
さらに悪い知らせが入る。
大量の魚が死んでいる。
一発目。
行政から、
流出した油への対応を求められた。
油の回収。
拡散を防ぐための対応。
周辺への影響確認。
工場の復旧だけでも大変なのに、
今度は自社から流れ出した油への対応が始まった。
社長は思った。
「こっちだって被災してるんだぞ……」
しかし、
まだ終わらなかった。
二発目。
今度は漁協から連絡が入った。
「魚が死んでいます」
そして――
「今回の漁業被害について、お話があります」
社長は言葉を失った。
工場は水浸し。
復旧にも金がかかる。
そこへ油の回収・汚染への対応。
さらに、
漁業被害をめぐる損害の話まで出てきた。
さすがに社長も声を荒らげた。
「ちょっと待ってくれ!」
「大雨は自然災害だろ!」
雨を降らせたのは会社じゃない。
川を増水させたのも会社じゃない。
こんな大雨、
誰に止められるというんだ。
「不可抗力じゃないのか?」
ところが、話はそこで終わらない。
洪水は自然災害です。
しかし、油の流出事故については、天災による事故であっても水質汚濁防止法上の事故時措置の対象となり得ます。一定の場合には、事業者に流出防止のための応急措置や行政への届出が求められます。
つまり、
「大雨だった」
ということと、
「流れ出した油にどう対応するのか」
は、別の問題として会社にやってくる可能性がある。
そして環境汚染が怖いのは、
会社の敷地で止まってくれないことです。
工場から側溝へ。
側溝から川へ。
川から海へ。
そこで魚が死ねば、
その先には、
そこで仕事をしている人たちがいる。
水が引いてから、本当の問題が始まることもある。
工場そのものの被害。
復旧。
操業停止。
「大雨だったから仕方がない」
そう思っていた矢先に、
流出した油への対応。
さらに、
第三者からの損害の話。
まったく別の問題が、一度に押し寄せることがあります。
自然災害と、会社の責任。
その境目は、
思っているほど単純ではないのかもしれません。




